にゃかがわの雑記帳

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ほんとうの「きさらぎ駅」の思い出

 

「きさらぎ駅」という2ch発の有名な都市伝説がある。

 

グーグル検索の県1位 架空の「きさらぎ駅」:中日新聞しずおかWeb

 

 雑に要約すると、電車に乗った女性が「きさらぎ駅」という謎の駅に辿り着き消息を絶つ…という話で、その話のモデル(?)になっているのが静岡県浜松市を走る遠州鉄道と"さぎの宮"駅。こんな変な話を広められて鉄道会社としてもさぞ迷惑千万…かと思いきや割と乗り気らしい。

 最近ではテレビアニメにも出てきているようで、Twitterにおける私の観測範囲でもちょっとした話題となっていた。 

 

 そしてこの遠州鉄道だが、私の地元の路線である。そりゃあもう数え切れないくらい乗ったし、きさらぎ駅…じゃなくてさぎの宮駅も数え切れないほど利用してきた。だからこそ、数年前にきさらぎ駅の都市伝説を知った時は「え?何で?」という気持ちになった。

 何しろ、この路線には怪談のネタになりそうな要素がほとんどない。地方のローカル私鉄とはいえ日中は12分間隔で走っており、単線としてはかなり過密ダイヤだし、道中にトンネルが1つもない。始発から終点まで市街地と住宅街を走り抜ける、地方都市の通勤通学路線なのだ。朝夕は常に混んでおり、にぎやかで、沿線人口も多い。「見知らぬ電車に乗ったら異世界にワープ」みたいなイメージが全く湧いてこないのである。

 とはいえ、その"物語"の舞台にさぎの宮駅が選ばれた理由は地元民なりに推測する事ができる。というのも、さぎの宮遠州鉄道沿線の中では駅前がかなり寂しい部類に入る。名前の通り「鷺ノ宮団地」の最寄り駅なのでむしろ乗降客は多いのだが、駅の目の前に商業施設が無かったのだ。今でこそ近くにコンビニと和食レストランが出来たが、この都市伝説の初出である2004年頃といえば、駅の西隣には閉店して半ば廃墟と化したパチンコ店と無駄に広い駐車場が、東側には農業用水と民家と田畑があるだけで、夜になると周囲一帯は真っ暗だし、確かに怪談話の舞台になりそうな雰囲気だった。そんな暗闇の中で唯一煌々と明かりに照らされた駅舎とホームは、どことなく異世界感を醸し出していたかもしれない。

 

 そしてこの駅の目の前にあったパチンコ店。ここが今日の話の舞台である。私の記憶にある限り、少なくとも25年前には閉店しておりずっとずっと放置されていた。電車に乗ってるときもホームに立っているときも必ず目に入る場所だったのでよく覚えている。

 転機が訪れたのが今から13年くらい前。その頃自分は高校生だったが、ある日、電車に乗ろうとホームに立っていると、パチンコ屋の建物に知らない看板が掲げられていることに気づいた。見ると聞いたことのない会社の名前が入っている。どうやらこの建物を借りたらしい。事務所なのか作業場なのか知らないが、わざわざこんなボロい建物を使わなくても他にいくらでもあるだろうと思ったが、賃料が安かったのだろうと納得した。

 それから数日後、またホームで電車を待っていると、ずっと無人だったパチンコ店の駐車場が車で埋まっていた。そして、何やら大勢の人がゾロゾロと建物の中に入っていく。スーツ姿の男が数人駐車場に立っていて、客と思わしき人達を店内へと誘導している。客は老若男女バラバラだったが、若干高齢者が多いような気がした。何かのイベントだろうか?自分にはよく分からなかった。

 それからまたしばらく経った日、今度は建物の中からゾロゾロと人が出てくる光景に遭遇した。みんな大きな紙袋をぶら下げてニコニコしている。一体何の集まりなのかさっぱり分からないので手元のガラケーで会社名をググったら、関連ワードに出てきたのは「催眠商法」という文字だった。要するにそういうことだったのだ。ゾロゾロと出入りしているのは販売会に集まった客で、紙袋の中身は何だか良く分からないけど、中で購入した高価でありがたい物が入っていたのだろう。パチンコ屋の跡地を借りたのは、大勢の客を集めるのに手頃な広さだったからなのだろう。当時は円天の事件が話題になっていた頃で、まさか自分の近くでもこういう話が湧いてくるなんてなぁと驚いたのを覚えている。

 その後も、駅で電車を乗り降りする度に事務所を出入りする人達の姿が目に入った。みんなニコニコして幸せそうだった。僕はそれを見る度に何とも言えない複雑な気持ちになったのだった。やがて、いつの間にか事務所はなくなり、今では前述の和食レストランになっている。だが、あのパチンコ店の建物には自分の知らない異世界への入口が確かにあったのだ。

 あそこでニコニコしていた人達は今頃どうしているんだろうか。未だに異世界を旅しているのだろうか。そんな感じのことを、最近の「きさらぎ駅」の話題で思い出したのだった。